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札幌高等裁判所函館支部 昭和31年(う)67号 判決

控訴人

被告人 近藤昭典 外二名

弁護人

杉之原舜一

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、全部被告人らの連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人杉之原舜一および被告人ら各提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一、弁護人の控訴趣意三および被告人らの控訴趣意(採証の法則違反および事実誤認)について

原判決挙示の証拠によれば、被告人らは、原判示日時共謀のうえ運転手小林富夫に対して各自同人を原判示のように自動車から引き出す等の暴行を加えて、同運転手が原判示会社の命にしたがつて右自動車を廻送することの運転業務を妨害し、かつその際同人に対して原判示傷害を加えた旨の原判示事実を認めるに十分であつて、当審における証拠調の結果によつても右認定をくつがえすに足りない。しかして本件のように共犯たる犯罪事実を判示するには、共同で加功した各分担行為が全体として一つの犯罪構成要件を充足することを認め得る程度に説示すれば足り、かつその証拠を掲げるにあたつても、被告人ごとにどの証拠によつてどの分担行為を認めたかを具体的に示す必要はないから、本件被告人らが各実行した犯罪事実とその証拠を示すにあたつては、原判示程度に表示すれば十分であつて、右判文と本件記録をてらしあわせれば、被告人らの分担行為とその証拠の関係は容易に知ることができるし、また原審の証拠の取捨判断に誤りもなく記録を精査しても、原判決には事実誤認その他所論のような違法はない。論旨はいずれも理由がない。

二、弁護人の控訴趣意一の(一)ないし(四)(刑法第三六条、第三七条不適用を論難する主張)について

押収にかかる昭和三〇年七月二五日付確認書ならびに同日付覚書と題する書面および原審ならびに当審における証人芦田勇の証言によれば、所論覚書第五の「協定期間中に本係争が妥結しない場合、組合は七月二四日の争議状態にかえる。」旨の条項(前記確認書第一項によると、該協定期間は、同日から同月二九日までと定めてある。)は、被告人らの所属する組合(当時他に第二組合があつた。)が、原判示日時会社との争議を一時中止する協定を結ぶにあたつて、組合は、その協定成立前から争議手段として原判示自動車をふくむ会社所有の自動車五十数輛を接収していた関係から、争議中止中は、一時該自動車を会社に返還してその管理下におき、もし団体交渉が妥結のはこびにいたらないときは、組合において再び該車輛を接収することができることを約したものと認めることができる。したがつて、右団体交渉が決裂した場合には、後記のように被告人らが所属する組合員が運転していなかつた原判示自動車は、会社においてこれを引き渡す義務があるものと解するを相当とする。(もつとも、当審証人稲川秀隆らの証言によると会社は、前記協定成立前から、原裁判所に対して組合を相手方として該自動車の返還請求権保全の仮処分を申請していたことが認められるので、これら諸般の事情からみると、右覚書第五項の趣旨は、会社としては、争議妥結にみちびく一方法としてたんに一応組合が、該自動車に対する協定成立前の占有を回復することを許したにとどまり、組合において引続き該自動車を管理しうる権原まで附与したものではないと解される。)されば、会社は、右組合に対して前記団体交渉が決裂したのにもかかわらず、第二組合員である小林富夫が運転していた原判示自動車を引き渡さなかつたとすれば、あるいは、右協定上の義務不履行の責を免れないといいうるとしても、前記覚書の趣旨ならびに確認書によれば、該協定と同時に労使は、団体交渉が前記確認書第一項記載の期日までに妥結しないときは、合意のうえその期間を延期できることを約している事実が認められることおよび本件犯罪は、右団体交渉の決裂の日からすでに七日余を経過してから行われている等諸般の事情からみてこれをただちに急迫の侵害とも解されないし、またもともと組合は、何時でも同盟罷業等の争議行為を行いうるのであるから、これらの手段に訴えてその引渡義務の履行を求めればそれで十分であつて、たとえ被告人らの原判示犯罪は、右協定上の権利実現のために行われたとしても、これを目して緊急已むをえない行為とも考えられない。本件に、刑法第三六条、第三七条を適用する余地はない。してみれば被告人らが前判示のように小林運転手の運転行為を暴力をもつて阻止した原判示の所為が同人に対する業務妨害罪を構成することもとより論をまたないところである。論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条によつて本件控訴を棄却すべきものとし、同法第一八一条第一項本文、第一八二条を適用して、当審における訴訟費用は、全部被告人らの連帯負担とし、主文のとおり判決した。

(裁判官 西岡稔 磯江秋仲 水野正男)

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